2016年5月12日木曜日

「あたりまえ」を手に入れるために


「ありがとうございます」
手を伸ばしてチラシを受け取ると、女性は凛とした声でそう言った。

チラシには、白い紙に赤字で「介助者 急募」と書かれている。

重度の障害者の自立生活を支える人を探しているらしい。

夕刻の東京・神保町。

「本の街」といわれ、古書店や大型書店が並んでいるが、

大手町から近いこともあり、近年は再開発が進んでオフィスビルが増えている。

スーツ姿のサラリーマンが家路を急ぐ時刻、

地下鉄の出入り口は、

地下へ入ろうとする人と、外へ出ようとする人が混ざり合い、

うまく流れをつくれずにごった返していた。

女性が2人、その流れを見ていた。

一人は車いすに乗っている。

チラシを手渡そうとして、何かを言っているが、

風にかき乱されて聞こえない。

ほとんどの人が、2人を視野に入れないようにして通り過ぎていった。

「介助者 急募」の上に、

「重度障害があっても地域で暮らし続けたい!」と添えられている。

「地域で暮らし続ける」ことは、

多くの人にとって「あたりまえ」だろう。

しかし、

その「あたりまえ」を手に入れるために、

女性たちは交差点に立ち、チラシを配っている。

誰かの「あたりまえ」を手に入れるために、

彼女たちは、頑張らなくてはいけないのだ。

私にお礼を伝えた声は、明るく、感じがよかった。


「あたりまえ」が、すぐそこまで来ているかのような響きだった。

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