2021年1月31日日曜日

【人間の土地へ】日本で暮らす私は、何を大切にして生きるのか?

 
 「とにかく、読んでみてほしい」というしかない1冊。 

 テレビや新聞などでは、なかなか分からない。知ることができない、シリアという国。
 そこで暮らしている人々の暮らしや習慣について、著者が出会った人々や出来事を通して 描かれている。
 読み進めるうちに、遠い国のことだという先入観は消えていき、 生きていくうえで、必要なものは何なのか? という問いが浮かんできた。 

 シリアと日本との間には、様々な違いがある。 
 日本は、経済的に豊かであるとされ、空爆で生命が脅かされることはない、安全だ。 
 シリアの情勢は悪化し、一般の市民が安全で暮らせる状況ではなくなった。
 しかし、情勢が悪くなる前のシリアの人々の生活の営み、家族の関係に「豊かさ」を感じるところもあった。 

 シリアの人々は、家族を大切にする
 助け合う 
 男性と女性の役割の違いがある 
 土地に根差した暮らし、経済がある 日本とは異なる部分も多いけれど、日本で暮らす人々、家族と共通する部分もある気がしてくる。 

 著者は、日本人女性で初めて世界2位の高峰K2に登頂した小松由佳さん。 
 小松さんはK2登頂後、山の麓で生活を営む人々に興味を持つ。 
 シリアで出会った人たちと交わり、日本とシリアを行き来する。 
 シリアの知人、友人を通して、情勢が急速に悪化していく過程を見てきた。 

 私たちが「内戦」と呼ぶものを、別の人は「革命」と呼ぶ。 
 立場が変われば、捉え方が変わる。 
 立場も、本人が主体的に選んだものとは限らない。 
 大切な家族を守るため、生活を維持するため、目の前にあった方法を選択した結果かもしれない。 
 正義とは、善悪とは、何か。 
 日本で暮らす私自身は、何を大切にして、生きるのか? 自分に問い直す1冊。

  

2021年1月26日火曜日

【バウルを探して 完全版】外出自粛の今だから、より一層、響くかもしれない一冊。自分が何を求めているのか、改めて考えてみたい

 

 川内有緒さん・著、中川彰さん・写真の「バウルを探して 完全版」 

 外出自粛の今、手にして、読んで良かったと思えた一冊。 

 自宅で過ごす時間が長いと、あれこれと考える時間も増える。 

 自分の生き方って、これで良かった? 

 時間やお金の使い方、大切にしたい物事、関わりたい人、関わりたくない人、あれこれ考える。 

 はっきりした答えは出ないが、本書を通じて、自分が大切にしたいものは何か。自分の本心に従うことが大切だと 改めて感じた。 

 本書「バウルを探して 完全版」は、 

 国連の仕事を辞めた著者が、以前から気になっていた「バウル」を探しに出かけ、 その旅の行程や出会った人々、「バウル」の歌について綴っている。 

 旅の背景として、 著者が、国連の支援の仕事に矛盾を感じていたこと。 その矛盾を抱えながら、続けていくことが、気持ちのうえで難しかったこと。 
 辞める決断をしたものの、それから先の見通しがはっきりしているわけではないこと などが紹介される。 

 著者と同様ではないものの、自分の生活や仕事の中で矛盾を感じたり、 もやもやしていてすっきりしないことは、私にもある。 

 自分は、何を、どうしたいのかが明確になれば、すっきりするのだろうが、 たいてい、求めているものが何か、自分自身では明確に掴みきれないものだと思う。 

 著者は、旅に出た。 
 「バウル」や、彼らが伝承している歌、その歌詞の意味を探る旅は、 自分とは異なる文化、生活、価値観の人と出会う旅であり、 自分自身の価値観や、生き方について見つめなおす旅になったのかもしれない。 
 そして、著者自身が何を大切にしたいのかが見えてきたのだと思う。 

 「完全版」でない本は、幻冬舎から2013年に出版されているが、 三輪舎から出版された「完全版」には、旅に同行した中川さんの写真が掲載されており、装幀も素敵だ。
 

2021年1月24日日曜日

【ファースト ラヴ】映画では、この役がどう描かれているかに注目したい




島本理生さんの直木賞受賞作品「ファースト ラヴ」 

 幼い頃に、心に傷を負った人たちの物語。 

 傷を自覚していなかったり、 
 傷に気づきつつも、どう対処したら分からず、抱えたままでいたり、
 誰かに出会うことで救われたり、癒されたり、
 傷つけた相手を許すことはできなくても、受けとめたりしていく。

 2021年2月公開予定の映画では、 主人公を北川景子さんが演じる。

 映画の脚本が、原作に沿ったものなのか、
原作から離れたものなのか分からないけれど、

私は、 この作品のキーパーソンは中村倫也さんが演じる庵野迦葉だと思うので、 

映画では、迦葉がどう描かれているのか。

それを中村さんがどう演じるかに注目したい。

  

2021年1月17日日曜日

【見えないスポーツ図鑑】見えない人に、スポーツの選手の動きや試合の臨場感をどう伝えるか。観戦ではなく、感戦へ挑戦した1冊

 

 目で見て捉えたものを、目の見えない人に、どう伝えるか。

見えない人が、「分かる」「想像できる」ように伝えるには、どう表現したらよいか。

スポーツを素材に、思考錯誤する過程も含めて紹介した1冊。

テーマの切り口、思考錯誤の過程、写真やイラストを交えた図解などが面白く、

なるほど、へぇーと思う。

スポーツ観戦の機会を得るのが難しくなっている今、

自分が好きな競技について、見えない人に翻訳する方法を試しに考えてみるのも面白いかもしれない。


2021年1月10日日曜日

【エンド・オブ・ライフ】命には必ず終わりがある。重いテーマだけど、読み終えたら気持ちが晴れやかになった1冊


「命には必ず終わりがある」ということは、分かっているけれど、
自分自身の「死」には、向き合いたくない。
身近な人、大切な人の「死」についても、積極的に考えたいものではない。

ただ、向き合わざるを得ない時は必ず来るし、
考えたくなくても、考えなくてはならない時が必ず来る。

そう思い、佐々涼子さんのノンフィクション「エンド・オブ・ライフ」を購入した。
いつでも読み始められるように机の上に置いていたのだが、「重そうだなぁ」「気が沈んでしまうかも」という気持ちがあり、表紙をめくるまでに少し時間がかかった。

新しい年を迎え、「えいっ!」と気合いを入れて読み始めたら、
一気に、読み終えてしまった。
確かに「重い」エピソードも綴られている。

しかし、あぁ、こういう命の閉じ方もあるのだと、教えてもらえた。
必ずしも「辛い」「重い」ばかりではないのだということを知ることができ、
救われる。

自分自身が希望するような命の閉じ方ができるのかどうかは分からない。
考えていても、いざ、その時が近づいてきたら、心が揺れて乱れてしまうかもしれない。

でも、命には必ず終わりがあるということに向き合わないまま、
ただ恐れている状態より、本書を通していくつかのケースを知ることができたのは
良かったと思う。

重いテーマだと敬遠する気持ちのハードルを乗り越えて、ぜひ、読んでほしい1冊。

#ノンフィクション
#読書