2022年4月28日木曜日

「意見を出してください」と言われても、意見を出せない理由

 

 「意見がある方は、出してください」 

 そんな呼びかけをした人の顔を見て、 「意見はあるけど、出すのはやめておこう」と思ったことがある。
 頭の中に意見は持っているけれど、それを出すことで、どうなるか?を想定し、 自分にとって得にならないな、損することになるかもしれないと思ったからだ。
 「黙っておいたほうが得」という判断だった。 

 結局、誰からも何の意見も出ずに、その集まりは終わったが、 気持ちのもやもやは残った。 
 「意見がない」という状態は、「異論がない」ということになり、 意見を求められた原案通りになるだろう。 変更や改善をしたほうがよい点を指摘する意見を出し合って、 よりより案にまとめていく可能性はなくなったからだ。 

 では、「意見を出したほうが良かった?」と自問したが、 私の答えは「ノー(No)」だった。 「意見を出してください」と呼びかけた人は、 自分がまとめた原案どおり、進行したい人だ。 

 だから、もし意見を出したとしても、 「そんなことをしても意味がない」 「一部の人にしか受けない」 「そんなのは、売れない」 理由や根拠をまったく示さずに、 他の意見を潰す姿が目に見えた。 
 意見を出したら、意見を出さなかったことによるもやもやよりも、 さらに不快な気持ちになりそうだった。

 『問いかけの作法』(安斎勇樹・著)は、職場のチームで、メンバーの魅力や才能を引き出す「問いかけ」を学べる1冊だ。 

 「問いかけ」は、質問の仕方だ。 具体的な問いかけの例を見ていると、「ああ、こんなふうに言い換えられたら、話しやすくなるなぁ」と思えるものが多い。
会議の場で、意見を出しやすくなる気もする。 

 一方で、そもそもこの本を手にするのは、 会議を活性化したいとか、部下やチームのメンバーに問いかけて意見や提案を引き出したい と思っている人なんだろうなぁと思う。


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2022年4月20日水曜日

【我が友、スミス】筋肉美を追求する場で当てられた「女らしさ」の評価のものさし

 

 「我が友、スミス」は、会社員の女性U野がトレーニングジムで声をかけられたことをきっかけに、ボディ・ビル大会への出場を目指す物語だ。スミスとは、筋トレのマシンの名前である。

ボディ・ビルの大会に向けて、肉体改造に取り組む中で、当然、U野の身体は変化していく。大会で「勝ちたい」という思い、自分に得意なことがあったのだという自覚、自信が出てくる。

一方で、職場の同僚からは「彼氏ができたの?」と問われる。
母親は、ボディ・ビルを男性のように筋肉ムキムキになることだと捉えており、「女らしくない」と懸念が示される。

さらに、ボディ・ビル大会での高評価を得るためには、肌の美しさ、ハイヒールで綺麗に歩くことなども必要とされていることが分かる。

なあ、母ちゃん。先日は、すまなかった。だが、あなたが「女らしくない」と評したボディ・ビルは、実はそうじゃないのだよ。この競技は世間と同等か、それ以上に、ジェンダーを意識させる場なのだ。「女らしさ」の追求を、ここまで要求される場を、私は他に知らない。人は、ボディ・ビルを「裸一貫で戦う」競技と見做し、その潔さを称える。ところが、そんな称賛に、私は鼻白んでしまうのだ。(「我が友、スミス」より)

 ボディ・ビルの大会での評価のものさしが基盤としている価値観に、気が付いた時、
彼女はどうするのか? それは、クライマックスで明らかになる。

ボディ・ビルって、「そんな競技だったの?」という驚き、「それと、これとは関係ないじゃん!」と言いたくなるような、大会の評価基準の不思議があった。

読み始めた当初は、肉体改造により、主人公がこれまでの人生で感じていた抑圧的なものから解放されていく物語かと思っていた。

しかし、物語の後半、ボディ・ビルは「女らしさ」が押し付けられる競技であることが示され、当初の予想とは逆になり、面白かった。


2022年4月11日月曜日

【ほんのちょっと当事者】「当事者」ではないけれど、「非当事者」でもない

 

 「当事者」という言葉は、あまり積極的に使いたくない言葉の一つだ。

 「当事者」は、事故や事件を起こした加害者あるいはその被害者を指して使うことが多いと思っているためかもしれない。 

 「私は、当事者だ」と言うと、事故や事件、何らかのトラブルで揉めている状態のど真ん中に立たされる気がして、 想像しただけで気が重くなってしまう。 

 では、他人に対して、「あの人が、当事者だ」と考えた場合はどうか。 

 「あの人が、当事者だ」と言う時には、「私は、当事者でない」が前提となる。
 事故や事件、トラブルの渦中から距離を置き、自分自身は安全圏にいて、 そこから上から目線で当事者を見ているような気がする。

 一方、 「あの人が、当事者だ(私は当事者ではない)」と言うと、 「私には、直接の関係はない」さらに「私には関係ない」と言っている気もする。 事故や事件、トラブルに対して、何か考えなくていい。無関心になってもいい、 言い訳に「当事者」を使ってしまう気がする。 

 「当事者」ではないけれど、「非当事者」だと断定したくない時がある。 
 「もしも、自分が当事者だったら?」 
 「もしも、自分の友達や家族が当事者だったら?」と考える時には、 「当事者」に近い位置に立っているはずだ。 
 「非当事者」という言葉からイメージするよりも、 「当事者」のほうに寄っている気がする。  そういう立場に立つ人を指す、適切な言葉があったらいいと思っていた。 

 「ほんのちょっと当事者」(青山ゆみこ・著)は、 児童虐待、性暴力などの問題について、 「自分事」として捉えて書かれているエッセイだ。

 著者自身が過去に経験したことを踏まえて 「当事者」に近い視点で書いているものもあるし、 ライターの視点から、他人事を自分事に引き寄せて書いているものもある。 

 「ほんのちょっと当事者」の「ほんのちょっと」の加減は、 取り上げているテーマによってさまざまといえる。 

 「当事者」ではなく、「非当事者」でもない立場を「ほんのちょっと当事者」と位置付けたとしても、それでスッキリするわけではなさそうだ。

この「ほんのちょっと当事者」になって考えることは、自分自身と当事者との「ほんのちょっと」の距離感を、 自分自身に問い続けることになるのかもしれない。 


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2022年4月6日水曜日

【旅する練習】我孫子から鹿島まで歩いてみたくなる1冊

「旅する練習」(乗代雄介・著)は、作家の主人公が、中学校入学を控えた姪とともに、千葉県我孫子から茨城県鹿島まで歩いていく物語だ。

我孫子って、どんなところ?

鹿島って、何があるんだっけ? と、思いながら読み始めた私にとっては、 ガイドブックのような本だった。

主人公は、旅の行程のところどころで見たもの、捉えたものを綴っていく。

その中で、民俗学の祖といわれる柳田國男のこと、小島信夫の作品「鬼(えんま)」のことなど、土地に縁がある作家や作品について触れており、 「へぇ、なるほど、そんな地域なのね」と思わされる。

一方、姪っ子の亜美(あび)は歩きながらサッカーの練習、リフティングを続けている。

鹿島を本拠地とするサッカーJリーグの「鹿島アントラーズ」のこと、

このチームのクラブアドバイザーとなっているブラジルの元サッカー選手ジーコのことも物語の中で紹介される形になっており

「ジーコってそんな選手、監督だったんだぁ」

「鹿島アントラーズって、そういう地域にあるのね」と知り、思わず応援したくなってきた。

物語の終盤は、そういう終わり方になっちゃうのかぁ…と、少し残念な気もしたのだが、別の終わり方にしたら物語にそれほど起伏ができなかったかもしれない。

読み終えた後、 我孫子から鹿島まで歩いてみたくなった人、意外と多いのではないか。

作品の舞台になった土地を訪れる「聖地巡礼」を、この「旅する練習」を片手にやってみたら面白そうだ。

「旅する練習」のルートが上手に活用され、集客できたら、地域振興・地域活性化に貢献する1冊になるかもしれない。

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2022年4月3日日曜日

【女の子だから、男の子だからをなくす本】男が泣くもんじゃないとか、女のくせに口を出すな、なんて言われたことはありませんか?

 

 

 「女の子だから、かわいくしないとね」

「男が、人前で泣くもんじゃない」

子どもの頃、「女の子だから」「男の子だから」と性別を理由に

「こうしないといけない」「こうするべきだ」と言われた経験はありませんか?

女の子でも、かわいいより、かっこいい感じが好きな子がいてもいいし。

男の子でも、泣きたい時には人前で泣いていい、はずだ。

それなのに、なぜ、「女だから」「男だから」と考えてしまうのだろう?

なぜ、「女だから」「男だから」という枠組みで物事を考え、自分自身の言動を性別に基づいてししばってしまうことが起こるのだろう?

この本は、「女だから」「男だから」という見方や考え方の呪縛を解く

きっかけとなる1冊だ。

「女だから」「男だから」といわれてきたことに、なんとなくモヤモヤしていたり、

違和感を感じていた人は、その理由が見えて、すっきりすると思う。

絵本だけれど、これは子どもより、親、大人のための1冊。

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