2019年2月20日水曜日

真実は、それほど美しいものではない。#真実の10メートル手前



米澤穂信さんの「真実の10メートルの手前」は、フリージャーナリストの太刀洗万智が取材を通して真実を明らかにしていく短編集です。

事件の謎が解けて、犯人が判明して、一見落着とは、少し違います。

真実が明らかにされると、それほど「美しいもの」ではないことが分かります。

真実って、美しいとは言えるものばかりじゃない
ドロッとしているんだよ。
明らかにして、スッキリしないものもあるんだよ。
あえて、そういうものを示してく姿勢を、著者が持っているのだと思います。

マスコミによってつくられる「美談」「バッシング」に対して、
冷ややかに見ている著者の視線も感じます。

主人公は、太刀洗なのですが、
各短編は、それぞれの事件で太刀洗に関わった人が語るスタイルで書かれているのも、
視点が変わって面白かったです。

「満願」「王とサーカス」も面白いけれど、まずは、最初のこの作品がお勧めです。

真実の10メートル手前 (創元推理文庫)


#読書





2019年2月1日金曜日

愛なき者、語るべからず。#はじめての批評



ブログでも、SNSでも、何か文章を書く時に、まず、考えたいこと。
それは、「誰に、何を、伝えようとしているのか」。
基本的なことだけど、実は、これ、しっかりできていないこともあります。

自分の書きたいことを書く場合、
思ったことを、そのまま、書けばいいというものではない。

自分が「書きたい」と思うのは、なぜか。
ちょっと、立ち止まって考えなければなりません。

自分の心の中にある不満を解消したいからではないのか。
自分のことを、より良く見せようとしているからではないのか。
書いている自分に酔っているのではないか。

いやいや、ちゃんと、「伝えたいこと」があると思える場合、
自分が「伝えたい」と思う理由も、今一度、確かめてみたいです。

本書「はじめての批評 勇気をだして主張するための文章術」は、
誰でも気軽に発信できる時代だからこそ、
文章を書くことの目的や意味、その基本について、分かりやすく学べる良書だと思います。

「批評」というと、ちょっと難しく、特別なものというイメージが沸くかもしれませんが、
本書での「批評」は、「価値を伝える文章」を指しています。
「これが良い」「悪い」「こちらに賛成(いいね!)」「あれは最悪」

伝わる文章かどうかは別として
「批評」って、実は、身近にたくさん溢れているし、
自分自身も意識せずに書いていると思います。

本書によると、「価値を伝える文章」は、「読み手を動かすもの」。
読み手の思考や行動を動かす文章だといいます。

つまらないものを、「つまらない」と書くだけでは、主観の吐露であって、批評にはならない。なぜ、つまらないのかを、他人を説得できるだけの客観性のある分析によって明らかにする。なぜ、そんなつまらないものが生まれたのか、原因や背景を論及する。さらに、どうすれば、つまらないものを面白くできるか提案する。そこまでやって、批評の第一歩だそうです。

ものすごくエネルギーが要りますね。

モチベーションを抱けないものは、批評を書くのは難しいかもしれない、と著者も指摘しています。
対象への愛があるからこそ、批評を書くことができる。
愛がなければ、それほどのものを書くことはできないということです。

「書きたい」「伝えたい」と思う時、
心の中に湧き上がるエネルギーを見つめてみたい。
それが「愛」ならば、きっと何かが書ける気がします。


はじめての批評 ──勇気を出して主張するための文章術