2019年10月29日火曜日

人種?格差?EU離脱?実感として分かりにくい事柄を、子どもに起こる何気ない出来事を通して解説してくれる1冊



最近の海外ニュースで「ブレグジット(Brexit: Britishとexitの造語)=イギリスのEU離脱」が取り上げられているが、正直、あまりよく分からない。

テレビのニュースや新聞記事などを通して、イギリスの社会情勢やブレグジットに関してもめている事情を知ることはできるのだが、それは表面的な知識にすぎない。

イギリスで長期に過ごしたり、生活したりした経験がないと、「ブレグジット」の賛成派・反対派それぞれがどういう層の人たちなのか想像ができない。
日本でも「格差社会」と言われることはあるが、イギリスの社会の中にある格差とは、具体的にどういうものかもイメージが沸かない。

ブレディみかこ著の「ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー」は、
イギリスのブライトン在住で、保育士の資格も持っている著者が、息子の中学校進学や、学校で出会った友達との間で起こった出来事などについて感じたこと、考えたことをつづったエッセイだ。

息子やその友達に起こる出来事は、その地域で生活していたらぶつかるであろう日常で、
特別な事件ではない。
しかし、その日常の出来事は、イギリスが抱えている根深い問題とつながっていることを著者は見抜いており、自身の経験や実感を踏まえて、日本で生活する読者にも分かりやすく解説してくれている。

子育ての経験がある読者は、著者が息子に対して注ぐ視線に、共感するかもしれない。
いわゆる「ママ友」といえるような母親同士の関係やつきあい方、学校の種類や教育方針、休日の過ごし方などは、日本と異なる部分もあれば、似たような部分もある気がして、興味深い。

冒頭で紹介した「ブレグジット」についても、賛成派・反対派がどのような人たちか、著者の視点で書かれており、私は本書を読んで少しイメージが沸いてきた。

「教育」「子育て」に携わっている方に、ぜひ、お勧めしたい1冊です。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー


2019年10月23日水曜日

【お勧めの映画】「嘘」と「真実」の間にあるものは?



是枝裕和監督の映画「真実」は、母と娘の物語。
観終わった後、ほっこり。
ゆったりして、穏やかに観られて、時々、くすっと笑える。
あたたかい映画でした。

映画の中で、特別な出来事は、何も起こらない。
でも、母と娘の心は、ざわざわっと揺れ動いて、
映画の最初と、映画の終わりでは、2人の関係性が微妙に変わっている気がする。

母と娘って、親子なんだけど、
お互いを鏡の映る自分のように思ったり、
娘は、母の女の部分をみて、真似たり、反面教師のように思ったり、
嫌だけど、似てると思ったり。

母は女優、娘は脚本家という、
少し特徴のある仕事をしている二人なのだけど、

母と娘のそういう関係って、あるよねー。
って思わされました。

「真実」の反対は「嘘・偽り」かもしれないけれど、
「嘘」にもいろいろありますね。

自分のためにつく「嘘」
相手のためにつく「嘘」
どちらの「嘘」も、「真実」を隠すという点では同じですが、
「嘘」をついた人ではなく、
「嘘」を受け取った人が、それをどう解釈したかによって
その「嘘」は大きく変わる気がしました。

自分を欺くためにつかれた「嘘」だと思えば、傷つくし。
自分のことを思ってつけれた「嘘」だと思うと、
いったんは傷ついても、許せたり、
「嘘」の背景にある思いに気づくと、「嘘」は「真実」を伝える以上に、愛が含まれている行為になるかもしれません。

少し寒くなってきたこの季節にもあっていて、お勧めの1本です。

#是枝裕和
#映画
#映画好きと繋がりたい

2019年10月8日火曜日

【お勧めの1冊】生きるって、なに?



「生きる意味がわからない」。
大学で、教え子から相談されたことをきっかけに、たかのてるこさんは、文を書いて贈ったそうです。
その文がもとになってできた一冊の本「生きるって、なに?」は、たかのさんが訪れた世界の国々で撮影した現地の人々の顏写真に、短い文が添えられたもの。

タイトルになっている「生きるって、なに?」という疑問に対して、様々な答えが示されます。
「生きるって、なに?」を探っていく中で、答えの一つに、「人に迷惑をかけることも、人に迷惑をかけられることも 恐れない」ということがあります。

たかのさんによると、インドでは、親が子どもに「おまえは人に迷惑をかけて生きているのだから、人の迷惑も許してあげなさい」と教えるそうです。日本人の場合、親が子どもに「人に迷惑をかけてはいけない」と教えるのが一般的だと思うので、インドの教えは新鮮に感じました。

「どんな人も、生きるうえで必要な全てを自分だけで用意できないから、みんなで力を合せていて、自分もその一員であることを理解すること」も、「生きるって、何?」の答えの一つ。

たかのさんが示す答えの一つひとつに、はっとしたり、頷いたり、自分が、今、ここに生きていることがどういうことか、俯瞰して捉えなおすような気持ちになりました。
お勧めの一冊です。


生きるって、なに?


2019年10月2日水曜日

8%がもたらす歪みは、再び?#高村薫#作家的覚書



「結局、経済成長の終わった先進国に暮らす私たちは、増税を受容して何とか暮らしていくしかないのだが、需要と黙認は違う」

作家の高村薫さんの「作家的覚書」の中に、
2014年4月に、消費税が8%に上がった時に書かれた文章(読売新聞2014年4月22日、寸草便り掲載、八%がもたらす歪み)がありました。

高村さんは、増税について「受容と黙認は違う」と強調された後、
以下のように続けています。

「たとえば税金の使い道は適性だろうか。今回の消費増税は、そもそも社会保障費の増大に対応しながら財政再建を進めるために行われたはずだ。ところが、国家予算は相変わらず膨張し続けているし、医療制度の見直しもほとんど進まず、逆に復興特別法人税の前倒し廃止が決まったり、法人税減税が俎上にのぼったりする始末ではないか」

「いったい何のための消費増税だったのか。8%のうわついた騒ぎに躍っただけで政治のルーズさに怒ることもしなかった私たちは、まだどこかで根拠のない甘い夢を見ているにちがいない」

私は、2014年に書かれた高村さんの文書を読んで、あれ?あれ?と思いました。

10月1日、消費税は8%から10%に上がりました。
やれ、ドラッグストアやスーパーで9月30日に駆け込みのお買いものがあったとか、
8%のものと、10%のものがあって分かりにくいとか、キャッシュレスがお得だとか、それって、やっぱり「うわついた騒ぎ」よね。

今回の増税も、社会保障費の増大に対応して財政再建することが目的だと、
聞いたような…。

私は、結局、黙認してしまっているのかもしれません。

この増税分、本当に、目的を果たすために使われるのかしら?
そこのところ、どうしたら、確認できるだろう。


作家的覚書 (岩波新書)