2019年7月25日木曜日

「好きだな、この人」と思った




「好きだな、この人」と思った。
直接、会ったことはない。
この人の作った音楽を聴いたことはない。
仕事をしている領域は、たぶん、重なっていない。
日常生活の中でキャッチしている物事も、自分とはかなり違うのだろうと思う。

しかし、寺尾沙穂さんが著書「彗星の孤独」に書かれていることを読んでいて、
寺尾さんが感じていること、価値の置き方に魅かれた。

本書の中に、次のような記載がある。

『何かをアウトプットする時、
まわりの評価や世間の常識の中でものを考え、
そこからはみ出さない範疇で選択したり、
答えを出すことに私たちはすっかり慣らされている。
そのほうが楽だからだ。
まるでその術をうまく知っている人が、頭がよく、
仕事のできる人のようにも錯覚する。
うわさに耳をそばだて、安全牌のうまく頼れれば、「成功」はなかば保証される』

『文学や芸術はもっともっと一個人に開かれていいものだと思う。
誰がいつ始めてもいい。
その巧拙やレベル如何に最後までこだわる人もいるだろうが、
一番大切なのはひとりの人間にとっての切実な表現と喜びがそこにあるかどうか。
それから、それを認めて受け入れてくれる人が身近にいるかどうか。
これは、人の幸福を決める大きな要因であり、人が生きていく上で、最強のセーフティネットになりうるとも思っている』

寺尾さんは、音楽家であり、文筆家だそうだ。

音楽家も作家も、それで生計を立てられる個人は、一握りだろう。
表現を手段にして生計を立てていないからといって、
その人の表現に価値がないというわけではない。

そのことを頭の中では理解できても、生活は切実なので、
お金にもならない表現を続けていてよいのだろうかと思ったり、
自分自身の表現活動が中途半端なものに思えることがある。

根っこを掘り下げれば、
「表現したいから、表現する」という動機があるはずなのですが、
それがどこかに消えてしまう。
自分の動機を掘り下げることについて思考停止して答えを出すほうが、楽だからだ。

こうすれば上手くいくという方法や、安全な流れに乗っかっていくほうが都合がいいこともある。

ただ、「それで幸せか?」と自分自身に問いかけると、自分の答えが見えてくる。



2019年7月11日木曜日

柚子の木おじさん





早朝、生ごみをゴミ置き場に捨てようと外へ出ると、黒いキャップ帽を被ったおじさんが立っていた。

私と同じくらいの背丈だから、身長は160センチ程度。
小柄なおじさんは、私の住まいの外壁あたりを眺めていた。

…なんだろう。
…不審な人ではないよね?

心の中でつぶやきながら、私は生ごみを片づける。
すると、おじさんが私のほうを見て、口火を切った。

「今年は、いっぱい実がついてるね」

雨天が続いているためか、庭に植えられている樹木が枝を伸ばしている。
そのうちの1つの木に、青い実がたくさんついているのが見える。

「今年は、大きな実ができるよ」と、おじさんは続けた。

…どうやら、怪しい人物ではなさそうだ。

「でも、せっかく実がなっても、鳥が食べちゃたりしないでしょうか?」

「鳥は、柚子は食べないね」

…へえ、なるほど。鳥が食べないのは、柚子の香りが強いからなのか、それとも酸っぱいからかな。そんなことを考えていると、おじさんが質問した。

「ぶどうは、実がなっているの?」

「いえ、ぶどうの実は、観てないです」

…蔦を絡ませて伸びているのは、ぶどうらしい。
 困ったな。私は、ここに植えられている植物の種類をしっかり把握しているわけではない。

「楽しみにしているんだよ」。
おじさんは、微笑んだ。

おじさんは、私の住まいの前の道をよく通っている。
昨年は、あまり実をつけなかった柚子の木を気にしており、
今年は、青い実がたくさんついているのが分かり、楽しみにしているそうだ。

おじさんのご自宅にも立派な柚子の木があり、今年は200個ほど獲れる見込みだ。
だから、私の住まいで育った柚子を分けてほしいというわけではない。

自分の庭であっても、他人の庭であっても、おじさんは、樹木や植物の状態が気になる人だ。

状態が良ければ喜び、順調に成長することを楽しみにしている。

おじさんにお礼を言って別れ、通勤のために家を出た。

いつもの道を歩きながら、私は、何を見ているか。
どんな変化に気がついているだろうか。
 改めて考えさせられた。


2019年7月10日水曜日

「逃げ恥」に嵌ったあなたへ、おススメの一冊。#呪いの言葉の解き方


 

海野つなみさんの漫画が原作、新垣結衣さんと星野源さんが出演したのドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」。略して「逃げ恥」。

この漫画・ドラマにはまった人におススメしたい一冊は、「呪いの言葉の解き方」。

例えば、「若さは、女の価値」という言葉。
その言葉を認めると、若いうちは価値が高いが、年齢を重ねるにつれて価値が下がっていくことを、自ら認めることになる。

果たして、それって本当?
自分自身が縛られたくない価値観に、知らず知らずに縛られている。
第三者による言葉で縛られることよりも、自分の言葉や価値観で、自分を縛ってしまう。そして、苦しい気持ちになったり、もやもやしたりする。

それが「呪いの言葉」であり、なぜ、「呪い」なのかが構造的に理解できると、それまでのような縛られている気持ちはなくなり、楽になれます。

「呪いの言葉」は、女性ばかりに掛けられるのではない。

「文句をいうな」「嫌なら、辞めろ」など、職場や取引先での人間関係の中で、
上司から部下に、顧客から企業担当者に掛けられる「呪いの言葉」もある。

本書では、「呪いの言葉」の解き方だけではなく、「呪い」の逆に、掛けられた人の元気を引き出すことができる「灯火の言葉」も紹介。

実際に使ってみたいと思いました。

  



2019年7月1日月曜日

他人とズレてることがもたらす幸せ



今村夏子さんの著書「こちらあみ子」

あみ子は、いわゆる「空気を読めない」子だ。
明確には書かれていないが、知的障害がある。
学校に登校できたり、お休みしたり。
歌を歌ってしまい、教室から保健室に移動したり。
いろいろあるが、あみ子は、いつもありのままで生きている。
あみ子自身は変わらないが、あみ子の周囲、母親や兄が少しずつ変わっていく。

外から見ると、「あみ子」を理解できず、「かわいそう」だと思われてしまうかもしれない。
しかし、あみ子は、自分自身を悲観していない。
あみ子は、ありのままを生きていて、周りが変わっても、それを受けとめて生きている。
あみ子が持っている「強さ」が光る作品だ。

文庫版に収められている「ピクニック」は、
いわゆる「ズレている」人を、見守る立場の視点から描いた作品。
書こうとしているものは「こちらあみ子」と重なるが、角度やタッチを変えて書いたものかもしれない。明るく、微笑ましく感じられる。
「こちらあみ子」を読んだ後に、こちらを読むのがおススメです。