2019年6月24日月曜日

【罪の声】自分の記憶を掘り起こしながら読む作品


 

 青酸カリを購入した菓子を店頭にばらまき、製造元の企業を脅迫する。

犯人の一人と思われる人物の似顔絵は、「キツネ眼の男」。
昭和の記憶として残る、あの事件。
「グリコ・森永事件」を覚えているだろうか?

小説「罪の声」を読むと、おぼろげな記憶をよみがえってくる。
あの事件を機に、お菓子が透明のセロファンで覆われるようになったこと。
子どもながら、どこで、誰が、被害者となるか分からない不安に怯えた。
お菓子に毒を盛るという行為は、消費者を含めた不特定多数に対する脅しだった。

この作品は、前半が、特に面白い。
自分の家族が犯罪に関与していたかもしれない。
無意識に、自分自身も関与させられていたのかもしれない。
そんな疑惑が浮かんでくる。
そのきっかけとなるのは、自分の「声」が録音されたテープの存在だ。

「作者は、本当は、ノンフィクションを書こうとしていたのでは?」と思うほど、
実際におきた事件の資料を基にストーリーを作っている作品だ。

昭和に生まれた人なら、
どこで、どんなふうに、あの事件の報道を見ていただろうか。
事件について、犯人について、どんなことを思っていただろうか。
などと、記憶を掘り起こしながら読み進めるに違いない。


 小栗旬と星野源の共演で映画化される予定。

原作と比較して、どんな映画に仕上がるのかも楽しみにしたい。











2019年6月21日金曜日

美しいものと、毒のあるもの。ショーン・タンの世界展 ちひろ美術館・東京


 



ある読書会にて、文書が書かれていない本を持ってきた参加者がありました。
登場人物や風景など描かれている絵を見ながら、頁をめくっていくと、ストーリーが分かる本。こう書くと、「絵だけなんて、小さな子供でも分かるような単純なストーリーなんでしょ」と思われるかもしれませんが、その本で描かれていたのは「移民」の物語です。

本のタイトルは「アライバル」
オーストラリアの作家、ショーン・タンの作品です。

故郷の国から、風習も文化も言葉も異なる国へ向かう男。
慣れない土地で、初めて見る生きものに出会い、異国で暮らす人と出会っていく様子がきめ細かく描かれています。
男、妻、娘など登場人物の表情や、ちょっとしたしぐさから、感情を読み取ることができます。ストーリーの流れも分かります。
「生きる」「家族」「故郷」「国」「文化」など、現代の社会にも通じる課題や背景を考えさせられます。
でも、描かれている世界は美しいです。



 


一方、最新作「セミ」は、ヤバいです。
ブラックな雰囲気が漂います。
最初は、「セミ」=「日本のサラリーマン」「社畜」のように思っていましたが、終盤に来て、ばっさり、やられます。

「セミ」は「人」を、鋭い視線で観ています。
しっかりと毒が盛られている作品で、終盤で、読者に効いてきます。

いわさきちひろ美術館・東京で「ショーン・タンの世界展」が開催中です。
「アライバル」をはじめ、代表作の原画や、制作の工程が分かるものも掲載されていて、面白かったです。





2019年6月18日火曜日

大人だからこそ、読みたい絵本 「何が大切か」を自分で決めきれない、そんな、あなたへ



本に巻かれている帯の一文「何が大切かは、自分で決める」

そう、そう、これは重要だよね。
「何が大切かは、自分で決める」。全面的に、賛成。
だけど、「何が、大切か」って、ハッキリ分かっているところと、微妙なところがあるのよね。

両立しがたい二つものを抱えて、両方とも大切に見えたり。

大切なものがたくさんあって、目移りして、どれか一つを選べなかったり、

自分にとって大切なものがハッキリしていても、周囲の人たちや家族は別のものを大切にしていて、自分が大切なものを主張すると関係性が崩れる気がしたり。

考え込んで、結局、「何が大切か」を自分で決めきれていない状態になったりします。

だからこそ、「本当に大切なものは、何か」と、何度も、繰り返し、自分に問い直す必要があるのだと思います。

「青のない国」は、一人で暮らしている男が、珍しい花を見つけて、育て始めるところから始めます。その「花」の価値が、周囲の人々の言動により、変化していきます。
「花」の価値がとても高くなった時、あることをきっかけに、それまで大勢の人が見て感動していた「花」は見向きもされなくなります。

しかし、再び、その「花」を見たいという人と出会い、

男は「何が、大切か」に気が付きます。

この本は、「何が、大切か」を考えるための価値のものさしが、どのような物事に影響されるか、左右されるかを示しています。

さまざまな人間関係の中で生きている、大人の今だからこそ、読みたい1冊。
自分にとって「何が、大切か」、その軸、ぶれていないか?と、見直すきっかけになりそうです。


#読書




2019年6月13日木曜日

できない時に、やりたくなる。効果的なゴール設定、モチベーションの引き出し方



「何かをしたい」という思いが沸いてくる時は、どのような時ですか?
一つは、これまで、何気なくしていたことが、突然、できなくなった時ではないかと思います。

先日、健康診断を受けるため、前日の夕食以降、食事を控えなければなりませんでした。
「食べてはいけない」と禁止されると、逆に、何か、食べたくなる。
意識すればするほど、食べたい気持ちが増して、やけに空腹が気になりました。
健康診断を終えて、ようやく食べ物を口にできた時の喜びは格別です。
「あぁ、食べられる。美味しい。幸せ」と思いました。

朝昼晩、食事をする度に、同じような感動を得ているわけではありません。
食べることが「できない」時があったからこそ、食べる喜びを改めて実感したのだと思います。

コーチングを学び始めて、最初に読んだ1冊が「コーチングの教科書」(伊藤守・著、アスペクト)です。この本は、一般の方にも分かりやすく、コーチングのポイントがまとめられているのでお勧めです。

この本の中で、「効果的なゴールセッティング」について解説されています。
主なポイントは、
ゴールを、「〇〇しなければならない」と捉えると、エネルギーは下がる。
ゴールを達成するには、その人自身の内側からの原動力が必要。
ゴールについて「自分で選んでいる」という意識が持てると、自発的な行動の原動力になる。そのために、ゴールを達成することで、自分が何を手に入れることができるのかを明確にすることが重要、ということです。

仕事では、売上など具体的な数値目標が掲げられることが多いと思います。
その目標がゴールだとした場合、ただ「この売上を達成しなければならない」とノルマを課された気持ちになれば、モチベーションは上がりにくいでしょう。
社員それぞれが、この売上目標を達成したら、何を得られるのかを明確にできたら、自分のために頑張れそうです。得られる「何か」は、特別賞与とか、より上の役職などが分かりやすいですが、これまでにない経験(キャリア)なども含まれると思います。

ただ、上昇志向を持ちにくい(頑張っても報われないことが多い)現状がある時、
どのように効果的なゴール設定をしたらよいかは、課題かもしれません。

先ほどお話した、「食べられない」時に、「食べたい」気持ちが沸いてきたという経験は、この課題を解決するヒントがありそうです。

「食べられない」状況ではなく、「食べることができる」。
これは、すでに自分自身が手に入れている価値あるもの。
その価値をさらに高めるような行動を「自分で選ぶ」
例えば、ごはんとお味噌汁に対して、素材を作った人に思いをはせたり、ちょっと丁寧に調理してみたりして、「価値あるもの」と位置づけてみる。一口、一口、「食べることができるなんて、あー、幸せ」と噛みしめてみる。

売上や賞与、役職など、仕事で設定されるゴールとは異なりますが、
暮らしの中で何に価値を置くのか、ゴールを設定することも、日々のモチベーションを高めるうえで有意義だと思います。

手に入れていないものだけでなく、
すでに手に入れているものにも目を向けて、
何を手に入れたいのかを決めたいものです。

効果的なゴール設定は、そのゴールを「自分が選んでいる」と実感できるものなので、
選んでいると思えなかったら、設定しなおす必要がありそうです。


【コーチングを受けてみたい方へ】

7月開始の方を2名のみ受け付けます。

1回1時間、月2回、計6回からで設計いたします。

ゴールの設定は、コーチングのテーマの一つです。
人に話しているうちに、自分が何を考えているのか分かったという経験ありますよね。
コーチングは、受けている方のニーズに応じて、頭の中の考えを整理したり、目標を明確にする「問い」を提供します。「選ぶ」のは、コーチではなく、コーチングを受けているクライアントさん自身です。

ご関心ある方は、reikakawahara@gmail.com まで、お問合せください。
2名の枠は埋まりしだい、締め切ります。


  
#コーチング

2019年6月10日月曜日

今年上半期読書のベストワンかもしれない。お勧めの1冊 「居るのはつらいよ」



この本に出会えてよかったと思う一冊。
20191月からの上半期ベストワンになるかもしれない。
東畑開人さんの「居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書」は、「デイケア」で起こっていること、そこで提供されているケアとセラピーを解説している。
デイケアで働く専門職の役割や考え方、東畑さんが行う心理士としての仕事などを、事件や失敗談も交えて紹介している。
「デイケア」は、そこで過ごした経験がない人には、その場の雰囲気を想像することが難しい。医療とも介護とは異なる、ケアとセラピーの領域は、あまり知られていないと思う。
この1冊を読むと、「デイケア」で働く人の仕事がどのようなものかを知ることができる。
なぜ、「デイケア」が必要なのか。
なぜ、職員が次々と退職するのか。
なぜ、「ケア」に携わる人の賃金が安いのか。
著者の体験を基に書かれているだけあって、「デイケア」を取り巻く根深い問題が浮き彫りにされていると思う。

これほど面白い学術書は、初めてかもしれない。
「居るのはつらいよ」