早朝、生ごみをゴミ置き場に捨てようと外へ出ると、黒いキャップ帽を被ったおじさんが立っていた。
私と同じくらいの背丈だから、身長は160センチ程度。
小柄なおじさんは、私の住まいの外壁あたりを眺めていた。
…なんだろう。
…不審な人ではないよね?
心の中でつぶやきながら、私は生ごみを片づける。
すると、おじさんが私のほうを見て、口火を切った。
「今年は、いっぱい実がついてるね」
雨天が続いているためか、庭に植えられている樹木が枝を伸ばしている。
そのうちの1つの木に、青い実がたくさんついているのが見える。
「今年は、大きな実ができるよ」と、おじさんは続けた。
…どうやら、怪しい人物ではなさそうだ。
「でも、せっかく実がなっても、鳥が食べちゃたりしないでしょうか?」
「鳥は、柚子は食べないね」
…へえ、なるほど。鳥が食べないのは、柚子の香りが強いからなのか、それとも酸っぱいからかな。そんなことを考えていると、おじさんが質問した。
「ぶどうは、実がなっているの?」
「いえ、ぶどうの実は、観てないです」
…蔦を絡ませて伸びているのは、ぶどうらしい。
困ったな。私は、ここに植えられている植物の種類をしっかり把握しているわけではない。
「楽しみにしているんだよ」。
おじさんは、微笑んだ。
おじさんは、私の住まいの前の道をよく通っている。
昨年は、あまり実をつけなかった柚子の木を気にしており、
今年は、青い実がたくさんついているのが分かり、楽しみにしているそうだ。
おじさんのご自宅にも立派な柚子の木があり、今年は200個ほど獲れる見込みだ。
だから、私の住まいで育った柚子を分けてほしいというわけではない。
自分の庭であっても、他人の庭であっても、おじさんは、樹木や植物の状態が気になる人だ。
状態が良ければ喜び、順調に成長することを楽しみにしている。
おじさんにお礼を言って別れ、通勤のために家を出た。
いつもの道を歩きながら、私は、何を見ているか。
どんな変化に気がついているだろうか。
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