「ありがとうございます」
手を伸ばしてチラシを受け取ると、女性は凛とした声でそう言った。
チラシには、白い紙に赤字で「介助者 急募」と書かれている。
重度の障害者の自立生活を支える人を探しているらしい。
夕刻の東京・神保町。
「本の街」といわれ、古書店や大型書店が並んでいるが、
大手町から近いこともあり、近年は再開発が進んでオフィスビルが増えている。
スーツ姿のサラリーマンが家路を急ぐ時刻、
地下鉄の出入り口は、
地下へ入ろうとする人と、外へ出ようとする人が混ざり合い、
うまく流れをつくれずにごった返していた。
女性が2人、その流れを見ていた。
一人は車いすに乗っている。
チラシを手渡そうとして、何かを言っているが、
風にかき乱されて聞こえない。
ほとんどの人が、2人を視野に入れないようにして通り過ぎていった。
「介助者 急募」の上に、
「重度障害があっても地域で暮らし続けたい!」と添えられている。
「地域で暮らし続ける」ことは、
多くの人にとって「あたりまえ」だろう。
しかし、
その「あたりまえ」を手に入れるために、
女性たちは交差点に立ち、チラシを配っている。
誰かの「あたりまえ」を手に入れるために、
彼女たちは、頑張らなくてはいけないのだ。
私にお礼を伝えた声は、明るく、感じがよかった。
「あたりまえ」が、すぐそこまで来ているかのような響きだった。
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