2025年1月13日月曜日

【ようこそ、ヒュナム洞書店へ】本屋さんを舞台に人生について考える。自己啓発書のような小説。

 


 

 

小説「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」(ファン・ボルム著、牧野美加・訳、集英社)は、ソウル市内の本屋さんに出入りする人々の物語。

 

「自分の家族に、どう向き合っていけばよいのか?」

「大企業への就職を目指すのか、アルバイトのままでいいのか?」

「好きなこと、やりたいことが見つからない」

 

夢や目標、仕事やお金、家族との人間関係、この書店に集う人々はそれぞれ悩みを抱えている。

 

誰もが人生の中で大なり小なりぶつかりそうな悩みなので、読者は、登場人物の誰かに自分を重ねるかもしれない。

 

私はこの本を読みながら、ヒュナム洞書店の店内に自分も居て、登場人物たちの会話に耳を傾けているような気持ちになった。

 

 

「夢を持つことを、どう考えるか」は、本書の中で、たびたび登場する問いの一つだ。

 

ヒュナム洞書店の女性店主ヨンジュは、本屋さんを開くことが夢だった。

アルバイトのミンジュンに「夢を叶えたわけですね」と言われて、次のように答えている。

 

「満足はしてるのよ。でも、なんか夢がすべてじゃないような気がして。夢が大事じゃないってことでも、夢より大事なことがあるってわけでもないんだけれど、でも夢を叶えたからって無条件に幸せになれるほど人生は単純じゃない、って感じ?そんな感じがするの」

 

ミンジュンは大学卒業後、企業への就職活動がうまくいかず、ヒュナム洞書店でアルバイトをしている。

当面はアルバイトを続けるが、それから先、どうするのか。

自分の将来を心配している親との付き合い方も、悩んでいる最中だ。

 

ヨンジュ自身、離婚をめぐって母親との関係が悪くなった経験がある。

 

「親との関係は…こう思ったら、私は楽だった。

誰かを失望させないために生きる人生より、自分の生きたい人生を生きるほうが正しいんじゃないか、って。残念よね。愛する人に失望されるのは。でもだからって一生、親の望むとおりに生きるわけにはいかないんじゃない。(中略)」

 

「自分がこうやって生きているのはどうしようもないこと。

だから受け入れること。自分を責めないこと。悲しまないこと。堂々とすること。わたしはもう何年も、自分にそう言い聞かせながら自己正当化しているところなの」

 

店主のヨンジュの悩みに、登場人物が寄り添ったり、提案してくれる場面もある。

ヒュナム洞書店に集う人それぞれが自分の悩みに向き合い、前向きな一歩を踏み出す。

 

小説の形式だが、地域における書店のあり方、本を読むことや文書を書くことの意義、働き方、時間の使い方(ワーク&ライフバランス)などがテーマになっており、自己啓発書のようにも読める一冊。

 

 

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