子どもの頃、「大人になったらなりたいもの」を尋ねられ、もやもやした思い出がある。
昭和50年~60年代の小学生。クラスメイトの男子が「なりたいもの」は野球選手やサッカー選手が多かった。女子は看護師、花屋、パン屋。洋服のデザイナーなど、男子より多様だったかもしれない。しかし、私には特に「なりたい」と思うものがなかった。
小学4年生の頃、年度末にクラスで文集を作ることになった。児童一人1ページが割り当てられ、「今年の思い出」「私が得意なこと・苦手なこと」など共通の質問の答えを載せるもので、「大人になったらなりたいもの」は質問の一つになっていた。
自分だけ何も答えを書かないわけにいかず、私はいろいろ考えた末に「看護師」と書いた。
「大人になったらなりたいもの」の質問に対して、嘘の答えを書いたわけではない。
しかし、クラスの文集が完成した時のことを想像して憂鬱になった。「とりあえず、これにしておこう」と選んだ「なりたいもの」が、友達や家族の間で話の種にされるのが嫌だった。
絵本作家・鈴木のりたけ・著の「しごとへの道」は、仕事に就くまでの道のりを描いたコミック仕立ての絵本だ。第1巻は、パン職人、新幹線の運転士、研究者の3つの仕事を取り上げており、それぞれ主人公がその仕事に就くまでを物語にしている。それぞれの物語の終わりに、モデルとなった実際の人物が紹介される。
この本に登場する人たちは、現在の仕事(職業)について、子どもの頃から「これになりたい」という思いを抱いていたわけでない。「何をしたいのか」「何になりたいのか」よくわからず、悩んだり、遠回りしたり、挫折をしたりして、現在の仕事にたどりついている。
大人の中には、子どもの頃に抱いていた夢を叶えたという人もいれば、まったくそうでない人もいる。
3者3様の物語を読むと、「大人になったら、なりたいもの」を尋ねられた時、「特にない」とか、「分からない」と答えてもいいのだと思えてくる。
児童だけでなく、進路を考える高校生、就職活動をしている大学生にも参考になりそうだ。「しごとへの道」は、仕事に就いたところで終わりではなく、先に続いていることも示している。社会人が読んでも働き方や生き方について考える材料になるかもしれない。
「しごとへの道」(鈴木のりたけ、ブロンズ新社)
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