「対馬の海に沈む」(窪田新之助・著、集英社)は、JA対馬(対馬農業共同組合)に勤務していた職員の死と、その後に発覚した巨額の横領事件について追ったノンフィクションだ。
西山義治は、JAの共済事業で全国的にトップレベルの成績をあげている人物として知られていた。しかし、2019年2月、大量のアルコールを飲んで車を運転して海に突っ込み、溺死した。
彼の死後、建物の被害を偽造して共済金が振り込まれるようにするなど、さまざまな不正が明らかとなる。被害額の推計は、22億円以上にのぼった。
著者は、これほど大規模な不正を、たった一人の職員がおこしたものとは思えず、違和感を抱いた。共犯者がおり、組織的な腐敗や隠ぺいがあったのではないか?と疑い、調べ始める。
西山の家族、同僚や上司、JA共済の顧客などに取材し、不正の背景を描いていく。
もっとも読み応えがあるのは、JAの組織的な問題にとどまらず、西山に利用された顧客たちの「闇」を指摘した点だろう。彼らは西山の不正により恩恵を受けた面があるにも関わらず、罪に問われることはなく、被害者面をしようと思えばできる。
地道な取材を積み重ねて書かれていて、読み応えある1冊。