食事の好みが合わない人と付き合うのは、しんどい。
友達から、お付き合いしている相手が好きな料理を作るものの、自分自身は正直あまり好きな料理ではないので、ちょっとしんどいという話を聞いたことがある。
こってりした味が好きな彼氏。
あっさり、さっぱりとした味が好きな彼女。
一緒に食事をするのが日常的になった場合、どちらかが味の好みを相手に譲る必要が出てくる。「食べたいもの」を食べられなくなると、たしかに「しんどい」かもしれない。
いつ、誰と、どこで、何を食べるか。
どんな材料を使って、どのように調理するのか。
食べることは、これらの選択のうえで成り立っている。
選択は、それまでの経験の積み重ねで行われると考えると、
子どもの頃に、どのような食事をしていたかが影響するだろう。
食べるものを見ると、その人のお育ちが分かるというようなこともありそうだ。
小説「BUTTER・バター」(柚木麻子・著)は、週刊誌の女性記者が、男性の財産を奪って殺害した容疑で逮捕された女性を取材していく中で、自分自身に向き合っていく物語だ。
容疑者の女性は、若いわけでも、美人でもない。しかし、複数の男性と次々と付き合い、死別して遺産を手に入れている。男性たちは彼女のどこに惹かれたのか。女性記者は、拘置所で容疑者に面会して、彼女の人物像を捉えようとする。容疑者は、食事に強いこだわりを持っていた。有名な料理サロンに通い、料理のレシピや味についてブログにつづっていた。特にバター好きで、1つ2千円もするバターを買い込んでいたことなどがすでに報道されていた。
女性記者は、容疑者の食に対する執着や味の好みに注目する。
彼女のブログを読み、彼女が好む味を、試してみる。
容疑者と食を話題に対話していくなかで、女性記者は自分自身の過去や、心の底にある欲求に向き合うことになる。
いつ、どこで、誰と、何を、食べたいか。
食に関するこうした問いは、「どのように生きたいか」という問いにつながってくる。
食べることは、生きること。
このことを改めて実感させられる1冊だった。